絵本の古本屋「ばくの店」 〜 子どもの本のあれやこれや 〜

忘れさられ、うずもれ、本棚の隅で眠っている本たち。 求めている人に、求めている時に、出会うことができるようにと。 心をこめて1冊1冊手にとっていきます。

2016年04月

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子ども それも自立していく子ども いや もう少し微妙で、自立しようとしているが、周りのおとなからはまだまだ見えにくい「いつまでも 子どもだー」と思われている子ども。

心身ともに分かりやすく成長した時であるなら、周りも納得いくだろう。
しかし、おとなが考えるずーっと前から「もう一人前だ」と自分自身を誇らしく思い 一人鼻息あらい子どものことは見えにくい。 
そんな見落としてしまいそうな子どもの心をアーディゾーニはなんとみごとに表現しているのだろう。


きのうも今日もそしてあしたも 波止場で望遠鏡をのぞきながら、遠くの汽船をながめ、海をながめ
「いつか ぼくも〜」とふなのりにあこがれを抱き続けるチム。

ーーチムが、 ふなのりになりたいというと、おとうさんもおかあさんもわらいだして、「まだちいさす  ぎるよ。もっともっとおおきくなって、おとなにならなくちゃだめ」といいました。ですから、   チムは かなしくてなりませんでした。ーー

チムはおとうさんとおかあさんの態度 特にわらいだしたことと ちいさすぎる という言葉に ひどく
絶望します。家出をしようと思い海へ行きます。
このチムのさびしい後ろ姿。手を後ろに組んで体を丸め遠くの海をみつめています。
泣いているようにもみえます。

チムの誇りをズタズタにしたおとうさんとおかあさん。
でもチムには、ふなのりだったなかよしのボートのおじさんや、チムと航海の話をし、ちょっぴりラム酒をのませてくれるマクフェ船長がいます。
チムの願い、あこがれに共感し チムを海の仲間として認め、はなしのできるおとなです。

そんなチムが不法にのりこんだ大きな汽船。
ここでもチムは 仲間 として迎え入れられます。決して、まだ子どもだからと追いかえされないのです。

ーーせんちょうは、チムをみて、とてもおこりました。おまえは、ただのりだから、そのぶんだけ
  はたらかなければいかん、といいました。そこでチムは、バケツとブラシをもらって、かんぱんそ  うじを させられました。ーーー

チムは、船酔いでふらふらになりながら、つらいしごとをやりぬきます。
そして みんなに認められ ホーンパイプふき、うたい ふなのりの仲間になったのです。
(こぐま社からでている「チム完全復刻版」には、手を振り上げ大声で歌うチムと船乗りたちの
すばらしい絵が見開きで描かれています)

真夜中に船は岩にぶつかり、大波をかぶり、沈みゆく船の甲板でせんちょうはチムに言います。

ーー「やあ、ぼうず、こっちへこい。なくんじゃない。いさましくしろよ。わしたちは、うみの
  もくずときえるんじゃ。なみだなんかはやくにたたんぞ」ーー


チムに、最後まで船を守ることが、船乗りの仕事であり、誇りであると教える船長。そして それを成し遂げた2人。

アーディゾーニの視点は すごい  



『チムとゆうかんなせんちょうさん』 エドワード・アーディゾーニ さく・え
 せたていじ やく 福音館書店
     
  mititi














 

砂
『砂』 ウイリアム メイン作 林 克己訳 岩波書店 (1964年 イギリス)


ヨークシャ地方 グリニッジ子午線が、この町の海岸に突き出した地点を通過する。
海から吹きつける強い風。風に混じる細かい湿気まじりの砂。その中を黙々と歩く町の人々。
手を口に当て、下を向きながら足早に通り過ぎる。
話をすれば、たちまち砂が口に入り、吐き出さずにはいられない。砂が町を埋め、町の中心の
たった一つの教会は、砂に半分埋もれている。

「今日の砂は、まるでめった切りにして殺されるような感じだ」

どこまでも続く砂丘 砂以外何もない。することの何もない毎日。時間をもてあます
6人の少年たち。いつものように砂あらしの中を歩き回り、風よけの屋根を作り、、座り込んでおしゃべりをしながら、体を丸めて湿った砂を掘って時間をつぶす。

そんなある日 砂の中に線路を見つける。海に向かう砂に埋もれた線路。トロッコの発見。
有史以前の化石の発見。そこから始まる日々は 何もやることのなかった少年たちを夢中にさせる。



この本は不思議な本だ。淡々とした日常生活だけを語り、登場する人々の背景はほとんど描かれない。
最後まで、この湿った砂がつくる世界から出ない若者たち。「若者らしく〜」とか「こうあらねば」
とかが、一切ない。なにも訴えない。いつものことを執念深くやる。ただそれだけ。
けれど そこから浮かび上がってくるものが私の心をつかむ。
化石発見という日常に入り込んできた大事件。校長をも巻き込み、いつになくいい気分の少年たち。

天気は変わり窓をぐっと開ける。 こもった空気を外に出す。少年たちは爽やかな空気をすう。
30分位の間に、風が変わり、暖かい西風が吹きはじめ、がらりと陽気な天気になる。
そして笑いを抑えきれない少年たちが立っている。

この本の最後の明るさとユーモアが私を温かい気持ちにさせる。
   
                           mititi


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