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ウルスリと妹のフルリーナの世界。 三作目『大雪』


必死の表情で白い息をはき 片手でストックを持ち、大雪の降る中をスキーで急ぐウルスリ。
背負われたフルリーナは 表情も弱弱しく ぐったりと兄のウルスリの背で動かない。

なにがあったんだろう。体を斜めにして 疲れはてながらも 倒れてはならないと ウルスリの顔からは強い意志が感じられる。 早く 早く と気ばかりがせく。
フルリーナが強く握っている赤い糸が白い雪に揺れる。


ウルスリは家の手伝いをよくする。いや 手伝いではない 家族の仕事の一部だ。
ウルスリの仕事は家畜の世話。遊びではない。毎日毎日しなければならない事だ。

カリジェの絵は家畜小屋のウルスリの仕事を細かく描く。

ウルスリは小屋の前で家畜に水をやり、泉につれていく。
えさをやり かわいたわらをしく。
仔牛には毎日ミルクをのませ 小屋のしきりを磨き ほうきで掃除をし
め牛のまぐさに塩をまぜ 
ニワトリ ヒツジ 馬 の様子を注意深くみる。

「きょうのところは これでおしまい」 そう 明日は子どものそり大会。
毎日の仕事を終え、いつもとは違う浮き立つ気分。今日は特別の日だ。
へやにあがって すぐに机に向かい鈴をみがく。そりにつける鈴だ。
そり大会にそなえ 去年のそりを塗り直し つやを出し 色とりどりに飾る。互いに相手を「あっ」といわせるためにこっそりしたくにかかる。

明日までにしなければならない事で頭がいっぱいだ。
納屋からそりを降ろし ウルスリは考える。「ぼくは、そりをりんどうみたいに青くぬろう」
「青いそりの周りに みどりや赤や黄のふさをおどらせよう」

誰よりもすてきなそりにする事に一生懸命で、嫌がるフルリーナをふもとの糸やに行かせる。
フルリーナの「道はとおいわ。あんなに雪ふりなのよ」ということばにも「そのうち やんでしまうよ さあ ひとっぱしりしておいで」と妹を思いやる余裕もない。
何しろそりのことしか考えられないのだから。

欲しいものややりたい事があったら 後先考えずに突っ走ってしまうウルスリ。 幼い頃「すずまつり」で大きな鈴を求めて大雪の山小屋に行き雪の為に大変な思いをしたことなどすっかり忘れている。

そりの事しか考えられずピーンと張りつめた緊張感の中 ふと我に返った時のウルスリの恐怖。
「なにがあったのか? フルリーナはとうにもどってくるはずなのに」
ここから一気にのぼりつめるウルスリの後悔。胸がしめつけられる。
「にわかにあたりがしんとしたとき、ウルスリはするどくさけび、いもうとをよびました」
「つまらないひもなんかのために、あの子を村へやるんじゃなかった」

あまりに夢中になりすぎて、大事なものをかえりみるゆとりもなくなり、邪険にしてしまうこと。
はっと現実にもどり何がおこったのかと気が付いた時の恐怖。
誰にでもある忘れることのできない皮膚にまとわりついた感覚がカリジェの絵とともに蘇ってくる。


ながいながい赤い糸 みどりと黄のふさのついた一本の糸がどこまでもどこまでも続く。
その糸の先にいたフルリーナ。あらしの木は、動物を助けフルリーナを助けて命を終える。

おそろしい一夜が明け あらしの木の、折れた枝を先頭に、手をあげてそりにのるフルリーナとウルスリ。
赤い毛糸のふさが誇らしげに風に揺れる。

そり大会の後はごちそう おかし 音楽 ダンス その楽しいこと。
厳しいスイスの冬の色鮮やかな一日。

冬の終わるころフルリーナは 助けてくれたあらしの木の跡に、わかい苗木を植える。
海をわたってきた小鳥がとほうにくれないように
動物たちが又 枝の下をいこいの場所にできるように。

カリジェの絵はやさしい。


『大雪』
ゼリーナ・ヘンツ文 アロワ・カリジェ絵 生野幸吉 訳  岩波書店
1965年© 1973 第4刷
カリジェの絵本 6冊函入り