砂
『砂』 ウイリアム メイン作 林 克己訳 岩波書店 (1964年 イギリス)


ヨークシャ地方 グリニッジ子午線が、この町の海岸に突き出した地点を通過する。
海から吹きつける強い風。風に混じる細かい湿気まじりの砂。その中を黙々と歩く町の人々。
手を口に当て、下を向きながら足早に通り過ぎる。
話をすれば、たちまち砂が口に入り、吐き出さずにはいられない。砂が町を埋め、町の中心の
たった一つの教会は、砂に半分埋もれている。

「今日の砂は、まるでめった切りにして殺されるような感じだ」

どこまでも続く砂丘 砂以外何もない。することの何もない毎日。時間をもてあます
6人の少年たち。いつものように砂あらしの中を歩き回り、風よけの屋根を作り、、座り込んでおしゃべりをしながら、体を丸めて湿った砂を掘って時間をつぶす。

そんなある日 砂の中に線路を見つける。海に向かう砂に埋もれた線路。トロッコの発見。
有史以前の化石の発見。そこから始まる日々は 何もやることのなかった少年たちを夢中にさせる。



この本は不思議な本だ。淡々とした日常生活だけを語り、登場する人々の背景はほとんど描かれない。
最後まで、この湿った砂がつくる世界から出ない若者たち。「若者らしく〜」とか「こうあらねば」
とかが、一切ない。なにも訴えない。いつものことを執念深くやる。ただそれだけ。
けれど そこから浮かび上がってくるものが私の心をつかむ。
化石発見という日常に入り込んできた大事件。校長をも巻き込み、いつになくいい気分の少年たち。

天気は変わり窓をぐっと開ける。 こもった空気を外に出す。少年たちは爽やかな空気をすう。
30分位の間に、風が変わり、暖かい西風が吹きはじめ、がらりと陽気な天気になる。
そして笑いを抑えきれない少年たちが立っている。

この本の最後の明るさとユーモアが私を温かい気持ちにさせる。
   
                           mititi